村で初めての飛行士は、村で一番の長老だった。
長老は自ら飛行機を作成したが、あまりにも簡素な造りだった。子どもが作る紙飛行機のほうが、よほど頑丈そうに見えた。
村人は「プロペラ飛行機」を初めて見た上に、当地の発音では困難だったこともあって「ペラペラヒコーキ」と呼んだ。
村人は心底心配し、そして内心嘲笑した。そして空を飛んでそのままあの世まで飛んでいくつもりに違いないと噂した。
ついに出発の時が来た。ペラペラ飛行機は思いがけず力強い音を立て、プロペラは村人を吹き飛ばすほどの風を起こした。村人は心底驚き、長老が不在となる事の重大さに今更気が付いた。
「では、行ってくる」
長老は旅立った。清々した。もう長老のふりをするのには飽きていたのだ。くるりと世界を一周して、その間にいろいろな被り物を脱ぎ捨てた。
「飛行機がペラペラに見えるように細工するのは、自分を老いぼれに見せるのよりも難題だった」と、かつて長老だった者は大空で思い出し笑いをする。