「旦那様、本日の夕食はどうなさいますか」
旦那様と呼ばれた男は、執事に応えた。
「今日は中華にしようか」
執事は厨房にいるコックのところへ、ではなく、特別な鍵が掛かった部屋へ向かった。
二度、三度と鍵を開けて入った部屋は、薄暗い。紫外線で傷むものも多いのだ。
中華の棚から、来々軒のチャーハンを取り出す。これはかなり古い。昭和四十年年代、初期の樹脂製だ。
餃子は、招福飯店のもの。こちらは比較的新しく平成に入ってからのものだ。出来が良く、男の好物である。
執事はスープで迷う。意外と男の好みに合うスープは和洋中にかかわらず少ない。慶華門の卵スープは先週も出した。しばし悩んで、酔龍楼のフカヒレスープにした。
食品サンプルを盆に並べて食卓へ運ぶ。
「旦那様、お待たせいたしました」
執事にはままごとにしか見えないのだが、男はそれで腹が膨れるらしい。
執事は食品サンプルの収集と管理は性に合っているから、男の奇妙な食事を眺めるだけで金が貰えるのは悪くないと思っている。
もう少しスープのサンプルを揃えなければと、「満腹、満腹」と腹を撫でまわす男を見ながら考える。