寝室の闇が何となく嘘っぽく、すかすかしている。
夜の圧があまりにも軽いものだから、私はいつまで経っても寝付くことができないでいる。
こんな寝苦しい夜は、泥が寝床に忍んでくる。
泥は父のお気に入りだった。
父が死んでしばらくは、その気配を感じることは無かった。
どこか他所に行ったか、屋敷の奥のどこかで、人知れず乾いているのだろうと思っていた。
四十九日の法要が終わり、家産が名実ともに私の名義になったころ、屋敷のそこかしこで、再びあいつの痕跡を見かけるようになった。
泥濘の汚れは日に日に増し、それは私との距離感をじわじわと詰めてくるように思われた。
そしていつしか、私の寝室まで侵すようになった。
肌に触れる泥は、暖かくもなく冷たくもなく、湿っているようでも乾いているようでもあった。まるで猫の肉球みたいな感触だった。
泥よ、泥よ。お前は一体、父さんの何だったんだい。
泥はかすかに震え、私はそこにわずかな怯えのニュアンスを感じた。