2023年8月6日日曜日

地平線の掠れ/立花腑楽

 大地の果てに、コカ・コーラの空き瓶を捨てに行く。
 目的地は、ただひたすら西の地平線で、迷う懸念は微塵も無いはずだった。
 黄昏の、あの蕩けゆく太陽を幾夕も見続けたせいだろう。
 眼球は乾き、視界がおぼつかない。地平線は何重にも掠れて見え、まるで五線譜のようだと思った。
 さて、私が目指すのは何段目の地平線だったか。
 不安に思っていると、ぽっかり黒い人影が眼前の夕陽を遮った。
 その男の手には、スプライトの空き瓶が握られている。
 あなたはどちらに向かうのですかと問うたが、ひどく甲高い声でよく聞き取れない。
 仕方ないので、黙って彼に追従することにした。
 私が目指すべき地平線は、少なくとも彼が目指すそれよりは、きっと下の線なのだろう。
 茜に濡れそぼり、とぼとぼと、男と私はそれぞれの最果てを目指す。
 背後に伸びた影が、とてもとても長い。