だが、あることをきっかけに、ずいぶん名前が売れてしまった。この、足元でごろごろしている猫のせいだ。ある雨上がりの日、道端で目が合った。声を掛けたわけでも撫でたわけでもなかったが、そのまま家まで付いて来てしまった。
この猫は、気を付けても、隔離しても、私の目を盗み、写真に傷を付ける。フィルムのこともあるし、印画紙のこともあるし、出来上がった写真のこともあった。鋭い爪で付けたその傷は、虹となって写真に現れた。どんなに気を付けても、傷のない写真はできなかったし、一度付いた傷を消すこともできなかった。
青空にも虹、夕焼けにも虹、雷が光る夜空にも虹……。これでは作品にも商品にもならない。が、どうしても捨てることができない。
なかばヤケクソで発表したそれらの写真で、私はなぜか有名になってしまった。食うに困ることはなくなった。猫には、感謝しなければならないのだろうか。だが、傷を付けるのは写真だけでない。私の体にも、である。私の両腕両足には、やはり虹色の傷が絶えないのだ。