2019年9月1日日曜日

靴下譚/立花腑楽

 毎夜、タンスの中ではスワッピングが繰り広げられている。靴下とは実に多淫ないきものなのだ。
 赤色と青色、綿と化繊、ロングとアンクル。無秩序に絡み合いながら交情を重ねる。
 まるで蛇たちのソドムだ。
(あるいは、原初の海で撹拌される螺旋群)
 狂宴が過ぎ去った朝、靴下たちは何食わぬ顔でいつものパートナーとペアになる。
 偽装された貞淑。タンス内はまるで凪いだ湖面のようだ。
 その欺瞞から締め出されるように、不義悪徳の落し子たちが、次々にタンスから放逐される。
 ちぐはぐな毛色。ちぐはぐな形。彼らの受け入れ先などどこにもない。
 彷徨いに彷徨った挙げ句、今日も国道の片隅で軽トラックに轢殺されている。