暗闇に分け入るように、田んぼの中の一本道を歩いている。
星の無い夜にじわりと握られた懐が熱い。
先生に揮毫いただいた短冊が熱を発しているのだ。
内臓の炎症痛のように、どことなく悪意を孕んだ熱だ。
ああ、だめだ。やっぱり先生も保菌者だったのだ。
これは腐敗熱だ。「祝」の一文字が、「呪」に急行直下するときに発する摩擦熱だ。
これはもう持って帰るわけにはいかない。うちの店の商品まで汚染してしまう。
ここで燃やしてしまおう。
燐寸の硫黄臭と、ささやかな浄火の灯り。
汚染揮毫の短冊はあっという間に燃え尽きて、私はすっかり手ぶらになって、それでも懐に空虚な気持ち悪さだけを抱えながら、またひとり、闇夜の帰路に脚を踏み出す。