2020年6月20日土曜日

インクが乾かない/五十嵐彪太

 短い手紙を書いた。
 インクが乾いたら、送ろう。
 インクが乾いたら、封筒に入れよう。
 インクが乾いたら、切手を貼って、郵便局に行こう。
 出す勇気がなかなか出ないから、「インクが乾いたら」を言い訳にグズグズしているが、もう一ヶ月もインクが乾かない。乾いているか確かめるため、指でちょっと触った跡があちこちにできて、便箋が汚れていく。

 こんな手紙がもう何枚も溜まってしまった。部屋中が生乾きの手紙で足の踏み場もない。