2021年10月3日日曜日

ツノアリツノナシオニ/五十嵐彪太

「ツノがなくったって、俺は鬼だ!」
 と言い放って、若かった私は家を飛び出した。
 村ではツノのない鬼はかつて生まれたことはないという理由(後年、ツノのない仔鬼はどんな種族でも一定の割合で生まれると知った)で、私は村で除け者にされていた。家族からも疎まれていた。
 人間の町で暮らすことも考えたが、そこでも嫌われるだろうことが容易に想像できた。
 もう、除け者にされるのは御免だった。意地を張るのにも、隠れるのにも、開き直るのにも、疲れていた。
 放浪の途中で、気の合う友が出来た。初めての友人だ。ツノのある鬼だったが、ツノナシの自分を訝しむ様子はまるでなかった。
「故郷には、ツノアリオニもツノナシオニも、少ないけれどツノアリツノナシオニもいるよ。一緒に行こう」
 私は、友の故郷に根をおろすことにした。
 学問に熱心な地域で、私は大学に入り、以来ツノアリツノナシオニについて長年調べている。真性のツノナシオニだと思われた自分が、ツノアリツノナシオニだとわかったからだ。あの日、友に手を差し伸べられ、その手を握り返した時、頭皮が突き破れる感触を覚えた。二本の太いツノだった。