2026年1月27日火曜日

#冬の星々140字コンテスト「天」未投稿作/立花腑楽

冬の陽光は天窓でトリミングされ、部屋の一画にきっかり真四角の聖域を落としている。
そこに神殿を作ろうと、異国の菓子箱、アラビア詩集――あるだけのお気に入りを積み上げる。ところが、志半ばでその神殿は崩落した。神の怒りを被ったのだ。
奪還した陽光を浴びながら、怒れる神はにゃあんと吼える。

2025年10月31日金曜日

#秋の星々140字コンテスト「後」投稿作/立花腑楽

仕事からの帰路、影踏み鬼から告白を受けた。
私の影は践み心地がとても素敵で、このままずっと踏んでいたいのだそうだ。
いいですよ。私の影、もう消えちゃいますけど。
そう答えて、間もなく沈みゆく夕日に目をやる。
背後の気配がぎゅっと凝り、やがて名残惜しげな溜息が私の首筋をくすぐった。

2025年10月30日木曜日

#秋の星々140字コンテスト「後」投稿作/立花腑楽

 まだ若い僧侶だが、剃髪したての艶めかしい後頭部に「差押札」が貼られていた。
「前世からの罪業がついに贖いきれず、かような事態に」と、本人は一見しおらしくしているが、「まぁ拙僧は読経の声がいいので、この頭の功徳だけで十分お釣りがくるでしょう」とか言い出したので、何だこいつと思った。

2025年10月29日水曜日

#秋の星々140字コンテスト「後」投稿作/立花腑楽

 星の子を孕んだと、宮女の一人が告白した。少し前、後宮の上空を流星群が通り過ぎた。その夜に過ちがあったという。
寛大な王は「天が授けた子は、朕の子も同然」と、彼女を大事にした。すると、その後になって、実は私もと言い出す女が跡を絶たず、やがて宮廷中に星の子らの産声が響くことになった。

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二次選考通過

2025年1月31日金曜日

#冬の星々140字小説コンテスト「重」投稿作/立花腑楽

桜吹雪を見て「花びらで圧死しそう」と彼女が呟いた。薄紅色の薄片は、虫さえ潰せそうにない。あるいは溺死なら可能だろうか。
その後、桜の花びらに殺されるなら圧死か溺死か、議論した。
最終的に「花びらが地層みたいに重なって、圧死体はいつか化石になるの」という彼女の一言に、ぼくは屈服した。

2025年1月30日木曜日

#冬の星々140字小説コンテスト「重」投稿作/立花腑楽

薄青く透き通っていて、まるで空を漂うクラゲに見える。
不活性幽霊だ。今日みたいに無風で温暖な日によく観測される。
幽霊の比重は空気よりも小さい。殊に、不活性幽霊は固着性にも遊泳性にも乏しく、温められた気流に乗せられて、他愛なく昇天してしまう。
私はそれを消極的成仏と呼んでいる。

2025年1月29日水曜日

#冬の星々140字小説コンテスト「重」投稿作/立花腑楽

 布団に入ると猫がやってきた。私の下腹部に陣取り、すぐに寝息を立てる。
猫の重みが加わり、私の肉体はマットレスに沈む。底なし沼に飲まれるように、猫と私はずぶずぶ沈降した。
甘い閉塞と圧迫と自失のなか、猫の体温がかっかと燃える。
やがて猫は爆ぜ、闇の中に極彩色の夢を撒き散らした。